老化と炎症の話

誰でも年齢を重ねてくると多かれ少なかれ老化は気になるものですが今回は新書を参考に老化の原因について妊活を意識しながら自分なりに考えてみます。気になる方はお付き合いください。

まずその前に「加齢」と「老化」の違いについて少し整理。「加齢」とは物理的な時間経過。つまり産まれてから経った時間。なので同級生なら加齢はみんな一緒。一方「老化」とは加齢などに伴う生理機能の低下。なので同じ年齢でも老化の程度は人それぞれ。簡単に言うと一般に5歳から15歳は加齢してるけど老化はしていない。多くの場合20歳を過ぎると加齢に伴い少しずつ機能に低下が見られいわゆる老化現象がはじまるとされています。以上を前提に老化の話。

当院には四十歳以上の妊活患者さんも多く来院されています。妊活の結果を左右する要因のひとつが卵子の質。三十代であっても卵子は老化の影響を受けます。個人差があるものの三十代後半から四十代の患者さんにとって大きな壁になるのが卵子の老化。老化を完全に止めることはできませんが、老化現象を少しでも遅くすることで妊娠のチャンスが増え出産につながります。その上で老化の原因について考えることは大切だと考えています。(老化の原因は加齢だけではありません)

今回参考にしている新書「生物はなぜ死ぬのか」は、生命の誕生からはじまり、生命の進化の話を交えながら生物の死、後半ではヒトの死を考察し、最後に「生命がなぜ死ぬのか」について書かれています。老化や生命の進化に興味がある方はぜひ読んでみてください。本の中から気になった箇所を一部抜粋しながら備忘録的に進めていきます。

本書では「ヒトは老化して病気で死ぬ」と述べられており、老化ついては「細胞が老化すると体も老化する」となっていて、特に(加齢により)幹細胞が老化すると「造血幹細胞や免疫に関わる細胞の提供が間に合わなくなり異常な細胞が除去できなくなる」となっています。

細胞が老化すると体も老化する

受精卵が分裂し分化して器官の形成が進んでいき、体が完成すると、後はひたすら古い細胞と新しい細胞の入れ替えを繰り返します。(中略)しかし実際には、加齢に伴い機能が徐々に低下していきます。その理由の一つは幹細胞の老化です。(中略)老化した幹細胞は分裂能力が低下して十分な細胞を供給できなくなります。(中略)免疫に関わる細胞の生産が低下すると、感染した細胞や異常細胞の除去ができにくくなります。

小林武彦(2021)生物はなぜ死ぬのか 132p 講談社現代新書

そして異常な細胞を除去できなくなると、体内に残った古い細胞が炎症を引き起こし病気を招くとなっています。つまり少々ややこしいですが「加齢により老化した細胞増え、それをそのままにしておくと慢性的な炎症から臓器の機能を低下を引き起こし病気になる」と考えることができます。

老化細胞は毒をばらまく

もう一つ加齢による組織の機能低下の原因は、老化した体細胞がばらまく”毒”です。組織の細胞の入れ替えには、新しい細胞の供給に加えて、老化した細胞の除去が必要です。(中略)この老化した残留細胞が厄介で、周りにサイトカインという物質を撒き散らします。(中略)組織の老化細胞から放出された場合には、炎症反応を持続的に引き起こし、その結果臓器の機能を低下させ、糖尿病、動脈硬化、がんなどの原因となることが知られています。(中略)実はヒトでも長寿と体内の炎症の低さには関係があることがわかっています。加齢による老化現象はこの排除されない老化細胞に一因がありそうです。

小林武彦(2021)生物はなぜ死ぬのか 133p 講談社現代新書

来院する患者さんの多くが妊活や老化について話すとき食事栄養、酸素、血流など細胞に対しての供給面に注目されます。しかし「体内に残った古い細胞が炎症を引き起こし病気を招く」ことを考えると、それと同じくらい古い細胞を代謝させる”排出面について考えることが必要なのかもしれません。代謝といえば運動も関係してきそうですが排出となると細胞レベルではリンパの流れも大切かもしれません。リンパ系と言えば免疫とも関わりが深いし、リンパの流れは横になると良くなることが知られていますのでそうなると睡眠も関係してきます…。やはり人間の体は複雑で何か一つをしていれば老化を遅らせることができるわけではないと気がしてきますね。最後にこの本の本題「生物がなぜ死ぬのか」についてはぜひ本の中で確認してみてください。では!

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