鍼灸で IVF をサポートするなら、いつから始めるのが良いのか?

「タイミング法や人工授精(IUI)で結果が出ず、病院から体外受精を提案された」あるいは「すでに何度か採卵や移植を経験して整体やサプリ以外に何かもう一つできることはないか」と考え始めた…。そんなとき、鍼灸を妊活の選択肢の一つとして検討される方が増えています。
そうなると次に考えるのは
「体外受精に進むことになったけれど、(採卵が決まったけど)、鍼灸はいつから始めればいいんだろう?」
「移植のときだけでも効果があるのか?」ではないかと思います。
実際にそのような質問を、体外受精(IVF)にステップアップした患者さんから多くいただきます。

ここでは「どのタイミングで通い始めるのがベストなのか」「どの時期に集中した方が良いのか」など、IVFを受ける方にとって効果的な鍼灸の取り入れ方(=鍼灸プラン)について、研究データをもとに当院のこれまでの経験も踏まえて紹介していきます。

まずは、“良い胚を採ること”が何よりも大切

まずは、“良い胚を採ること”が何よりも大切です。体外受精(IVF)を意識し始めたとき、多くの方が気になるのが「移植のタイミングで鍼灸を受けた方がいいのか?」ということかもしれません。実際に、ネットや書籍などで情報を集めておられる方の中には、「移植日に鍼灸を受けると妊娠率が上がる」という情報をご存じの方もいらっしゃいます。ただ、それ以前にぜひ知っておいていただきたい大切なポイントがあります。
それは――「そもそも良い胚がなければ、移植も妊娠も成立しない」ということです。
つまり、鍼灸を取り入れるタイミングを考える上で、まず大切なのは、「質の良い胚をつくるための準備」をいつ始めるかという視点です。

卵子の準備は90日前から始まっている

ご存じの方もおられるかもしれませんが、卵子は、およそ90日ほど前から「リクルーティング(募集)」という準備段階を経て排卵に至るといわれています。つまり、今月の採卵に使われる卵子は、3ヶ月前からすでに準備を始めていたということになります。そのため、もし「体外受精に進もうかな」と感じているなら、採卵の2〜3周期前(=3ヶ月前)から鍼灸で体を整えていくことが理にかなっているのです。

実際に質の良い胚が採れた方が多くいます

当院では、30〜40歳前後の方が採卵の2〜3周期前(=約3か月前)から鍼灸を始めることで、良好な胚が得られたケースが多く確認されています。たとえば、

  • 「初めて胚盤胞になって凍結できた」
  • 「毎回桑実胚で止まっていたのが胚盤胞になった」
  • 「今までの最高グレードが3BBだったのに、今回は初めて4ABになった」

など、胚の成長やグレードに明確な変化が見られています。これは「なんとなく体調が良くなった気がする」といった主観的な印象ではなく、「胚の質」という客観的なデータに基づいた変化です。
通院頻度に関しては、週1回ペースの患者さんに、より顕著な改善が見られる傾向があります(論文でも示唆さされています)が、20代後半〜30代前半の方では、隔週の通院でも良い結果が得られることもあります。体質や生活スタイルに合わせた柔軟な通い方でも、タイミングを押さえることで成果につながる可能性があります。

採卵周期は“移植準備の一部”と考える

体外受精では「採卵した胚を一度凍結し、後の周期に戻す」という流れが一般的です。つまり、採卵の時点で、すでに移植の準備が始まっているとも言えます。採卵周期の鍼灸については、現時点では「胚の質を直接的に改善する」という強いエビデンスはまだ十分に揃っていません。
しかし当院の臨床経験では、採卵の前から継続的に鍼灸を受けている方に、良好な胚が得られるケースが明らかに多く見られます。特に、過去に採卵経験がある方で「今回のほうがグレードが良かった」と実感される例が多いのが特徴です。こうした変化の背景には、“採卵に至るまでの心身の状態”が大きく関係していると当院では考えています。
体外受精にステップアップされる方の多くは、タイミング法やIUI(人工授精)など、長期にわたる治療を経てきています。その中で、「なかなか結果が出ない」という焦りや不安、通院や検査の繰り返しによる心身のストレスが積み重なり、非常に(これまでで一番)メンタルが悪い状態で採卵に臨んでいるケースが少なくありません。このような、ホルモンがうまく働かなかったり、血流が滞っている状態で、質の良い卵子が育つことを期待するのは、正直なところ難しいかもしれません。
当院の「カウンセリング鍼灸」では、こうしたストレスや自律神経の乱れを調整し、“本来の自分の状態=普通”に戻すことを大切にしています。
つまり、「鍼灸で胚の質を高める」というよりは、妊活のストレスで“悪い状態で排卵・採卵されていた卵子”が、本来の“健康な状態で排卵・採卵される卵子”に戻れるようにサポートする、というのが当院の考え方です。

移植周期は“特に大事な時期”。エビデンスもあります

2002年に発表された論文※1では、移植当日の前後に鍼灸を行うことで妊娠率が上がったという結果が示されています。この研究は、その後の不妊治療分野でたびたび引用され、2008年前後からは鍼灸を補助療法として取り入れる流れが徐々に広まり、臨床の現場でも注目されるようになってきました。そのため、「移植の前後に鍼灸を行うことが、最も科学的根拠のある取り組み」とされることも多く、当院でも長年、移植日当日の施術を積極的にご提案しています。

通院ペースは柔軟に対応しています

当院では、週1回の施術を基本としていますが、

  • お仕事の都合
  • 遠方からの通院
  • 経済的な事情

などによって、隔週や移植周期だけの集中通院という形を選ばれる方もいらっしゃいます。もちろん、毎週通えないからといって悲観する必要はありません。ですが、やはり最も安定して結果につながっているのは、週1回ペースで通院されている方が多いのも事実です。このあたりは、無理のない範囲で、でも「良い時期に最大限のサポートを受ける」という視点から、上手に取り入れていただけたらと思っています。「たくさん通ったら効果がある」と決めつけるのではなく、「自分なりのペースで、でもタイミングはしっかり押さえる」という方針でサポートしていきたいと考えています。

最後に:あなたに合ったタイミングで鍼灸を

体外受精に進むと、どうしても治療のスケジュールや数値に振り回されがちです。でも、だからこそ「自分の体と心を整える時間」も大切にしてほしいと思っています。

  • 「次の採卵に向けて少しずつ準備していきたい」
  • 「今回は移植周期だからしっかり整えたい」
  • 「仕事と両立しながら、できる範囲で取り入れたい」

同じ妊活でも、状況や環境は一人ひとり異なります。また同じ患者さんでも時間ともに状況は変わっていきます。多くの患者さんを診てきた当院だからこそ皆さんに合ったサポートができると考えています。まずはご相談ください。

※1 Paulus W, Zhang M, Strehler E, El-Danasouri I, Sterzik K.
Influence of acupuncture on the pregnancy rate in patients who undergo assisted reproduction therapy.
Fertil Steril. 2002 Apr;77(4):721-4.
https://doi.org/10.1016/S0015-0282(01)03273-3